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NO. 286

親と子の絆(愛着)について

2020年7月

 養育者と子との間に築かれる特別な絆のことを、イギリスの児童精神科医ボウルビィは“愛着(アタッチメント)”と命名しました。

 1950年代、ボウルビィは世界保健機構(WHO)の委嘱でおこなった第2次世界大戦による戦争孤児の調査報告のなかで、家庭から引きはなされた子どもたちの生活環境が、社会適応にかかわる能力に大きな影響をあたえることを報告しました。子どもに、生まれつきに備わっている養育者と絆を結ぼうとする行動が阻害されるためだろうとボウルビィは考え、この絆を“愛着(アタッチメント)”と命名したのです。

 子どもの愛着を求める行動には、ほほ笑み、発声、泣く、後追いなどがあります。子どもの愛着行動に、養育者がしっかりと反応してあげると、子どもは「僕は愛されている存在だ。」と思い、養育者との愛着が形成されます。

 愛着が形成されると、子どもにとっての“安全の基地”が生まれます。安全の基地があれば、どこかで見ていてくれる、待っていてくれる、必ず助けてくれるなどの思いが生まれ、外の世界に出ていけるようになります。安全の基地は子供たちが社会生活を送るにはなくてはならないものです。

 赤ちゃんは、生まれた直後から、養育者の表情に反応するとされています。おとなの笑った表情には笑顔を、しかめ面にはしかめ面を返します。そして、生後1〜2か月までの無防備な赤ちゃんの一番の武器は“生理的ほほ笑み”です。笑っているのではなくて、反射神経がはたらいて笑顔になっているとされています。愛らしい“ほほ笑み”をみれば守ってあげるしかありません。生後2か月を過ぎると、“社会的ほほ笑み”が現れてきます。笑い返してくれる養育者を見て、赤ちゃんは安心するのです。

 こうして、赤ちゃんは親や養育者との間でいろんなキャッチボールをしながら成長していきます。そして、赤ちゃんが投げた球をやさしく受け取ってあげ、やさしく投げ返してあげれば、赤ちゃんとの愛着が形成され、赤ちゃんは安全の基地を感じると思います。

 しかし、現在は“メディア”というボウルビィの時代にはなかった問題があります。

 テレビやスマフォの映像を見て、赤ちゃんは喜んだり、びっくりしたり、泣いたりといろんな感情を表すかもしれませんが、赤ちゃんが笑いかけてもスマフォは笑顔を返してくれません、泣いても優しく抱きかかえてくれません。メディアとのキャッチボールは出来ないのです。安全の基地がどこにあるのか迷ってしまいます。

 ボウルビィが生きていたら、第2次世界大戦と同じほどの脅威を、現在の“メディア”に感じたでしょう。

 親と子の絆(愛着)の形成は難しいことではありません。赤ちゃんと豊かな時間を過ごしてください。赤ちゃんと目と目を合わせ、語りかけることで、赤ちゃんとの愛着(アッタチメント)と赤ちゃんの安心感(安全の基地)が育まれます。

 (津山市ホームページ『健康つやま21 ミニ講座』令和2年7月掲載予定の原稿です)

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