松尾小児科HPへ ≫ 「今日も元気で」topへ

NO. 171

“命の贈り物”

平成22年 7月

 アメリカでの心臓移植を希望していた倉敷のお子さんが移植を受けることなく亡くなられました。今回は、脳死と診断された子どものからの臓器移植に関してです。

 臓器移植は、亡くなる方から、受け取る方への“命の贈り物”と言われます。

  これまで、日本では、脳死の方からの臓器移植は可能でしたが、臓器を提供するのは15歳以上とする年齢制限があり、実際には心臓移植などが必要な子どもたちへの移植は不可能でした。1997年10月から2009年10月末までに105人の子どもが心臓移植を希望して渡航し、59人が海外で心臓移植を受けています。

 しかし、米国で臓器移植を受けるには1〜2億円の医療費が掛かります。また、現在は米国のみでしか外国人への臓器移植はできないのですが、米国でも外国人に対して行うことのできる臓器移植は全臓器移植の5%以下となっています。そして、世界では外国の患者への臓器移植により自国民の移植の機会が減少する事への問題が取り上げられ、外国での臓器移植を禁止する動きがあります。

 また、発展途上国では臓器売買が横行しており、臓器の提供者として小児の誘拐や、フィリピンのように金銭を求めた臓器提供が国際問題となっています。さらに悲しい数字ですが、2009年、米国では5歳以下の臓器提供をした子どもは356例、その中で虐待例が105例でした。

 このような状況の中、昨年「臓器移植法の改正案」が成立し、今年の7月17日より、15歳未満の方からの臓器の提供が可能となります。

 米国では2009年に8021例の脳死臓器提供がありましたが、日本では、成人で年間平均10例程度の脳死臓器提供に留まっています。日本人の国民性、宗教観から、法律が改定されたからといって日本での移植の増加には直ぐには結びつかないでしょうが、移植が必要な子どもたちにとっては、法律の改正は希望の光です。2010年7月17日は、小児医療にとっては歴史に刻み込まれるべき特別な日です。

 臓器移植に直接係わることは少ないかと思いますが、“命の贈り物”を託す子どもと家族のこと、“命の贈り物”を授かる子どもと家族のこと、子どもの臓器移植のことを考えてみてください。

松尾小児科HPへ ≫ 「今日も元気で」topへ