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NO.103

ドライブ・スルー出産

平成16年 10月

“マクドナルド”で待っている間にお産してしまった、ではありません。

“核黄疸”という病気があります。赤ちゃんは、生まれて2〜3日間はすこし黄疸が出るのですが、これが何らかの原因で異常に強くなる事があります。また、赤ちゃんの脳は、生後1週間までは無防備な状態なので、黄疸の原因であるビリルビンという物質が血液のなかで異常に多くなると、脳に沈着します。この状態を“核黄疸”と呼び、脳に重い障害を残したり、死亡することもあります。その為、早期に危険を察知して、予防的な治療をすることが非常に重要となります。

アメリカ小児科学会が、“核黄疸”を予防する為のガイドラインを発表しました。
* 退院直後の数日間にすべての乳児で黄疸検査を実施すべきである。
* 出生後24時間以内に退院する乳児は72時間まで、24時間〜47.9時間の間に退院する乳児は96時間まで監視を継続すべきである。    とあります。

アメリカでは、お産の後、当日か翌日に退院することが大半のようです。1994年の経膣分娩後の平均入院期間は1.6日なのです。それ以上の入院は保険会社が認めてくれないのです。この短期間の入院・出産・退院の状態を“ドライブ・スルー出産”と呼びます。
アメリカで、入院期間があまりにも短いので、「核黄疸の発症が増加している。」との報告が相次ぎ、「ドライブ・スルー出産はけしからん、保険会社は悪役」というイメージが定着していますが、一方で、入院期間を延長して核黄疸の発症を一例予防するのに4000万ドルかかると試算する研究者もいたりして、入院期間は長くはなっていないようです。 (アメリカ医療の光と影:李啓充著 医学書院発行 参考)
 日本ではどうでしょうか。正常なお産では、医療保険は使えませんが、保険の各組合などから、出産手当などの支給があると思います。入院期間は短くて5〜6日はあるのではないでしょうか。そして、入院中は、毎日のように黄疸の検査を受けていると思います。必要となれば直ぐに光線療法(蛍光灯で赤ちゃんを照らす治療です)などの治療が開始されています。このように、アメリカ小児科学会のガイドラインのうち、上の二つの項目は日本では全く必要ないのです。
 前回の“今日も元気で:日本の医療は金メダル”でも書きましたが、アメリカ型の医療制度、アメリカ型の保険会社が日本に導入されようとしており、改悪であると思います。プロ野球も儲けないから、赤字が出るから合理的に考えて、球団数を減らしましょう、1リーグにしましょうときています。犠牲者は野球ファンであり、患者さん、赤ちゃんであると思います。

(インフルエンザの季節が近づいています。今年は、昨シーズンとは違う型のインフルエンザが予想されており、ワクチンの型も変わったようです。予防接種を受けてください。)